医療・ヘルスケア

訪問看護の立ち上げ|指定基準から黒字化までの流れ

公開日 2026年10月1日更新日 2026年10月3日読了目安 約12分執筆: ラトリス編集部

訪問看護の立ち上げ|指定基準から黒字化までの流れ

訪問看護ステーションの立ち上げは、看護職員の確保を起点に、指定日から逆算して進めるのが基本です。人員がそろわないと指定申請が進まず、その間も家賃や人件費は出ていくため、最初に固まる順番を決めておくと判断しやすくなります。

この記事では、立ち上げの流れと順番、指定基準の要点、黒字化までの資金の見方、そして開業前に決めておきたい見直しラインを整理します。

訪問看護の立ち上げの要点

  • 指定を受けるには、看護職員を常勤換算で2.5人以上(うち1人は常勤)と、常勤の管理者1人が必要とされる
  • 申請の受付月や指定日は自治体ごとに違うため、早い段階で管轄の窓口に事前相談する
  • 採用が最も時間のかかる工程になりやすく、指定日から逆算して9か月以上前に動き始める解説が多い
  • 公的な経営調査でも事業所によって収支の差が大きく、赤字の事業所も一定数ある。開業すれば黒字になる業態とは言い切れない
  • 黒字化までの期間や運転資金は民間の解説に幅がある。開業前に「いつまでに黒字化できなければ見直すか」を文書にしておく

この記事でわかること

  • 立ち上げの順番と、各段階でやること
  • 指定基準(人員・申請)の要点と、自治体に確認すべき点
  • 新規法人・既存法人の新事業など、立ち上げ方の選択肢
  • 黒字化までの期間と運転資金の見方
  • 立ち上げ前に決めておく見直しラインと、他分野の失敗の型

想定読者: 病院で働く看護師・看護師長、訪問看護への参入を考える医療法人・介護事業者・一般法人の経営者の方です。開業の準備を始めたばかり、または計画を固めている段階を想定しています。

立ち上げの順番は、採用から逆算して組む

立ち上げの工程のうち、最も時間がかかりやすいのは採用です。指定の人員基準を満たせないと申請そのものができないため、民間の開業解説の多くは、指定日から逆算して採用を最初に置いています。

廊下で車いすの利用者を介助する様子
在宅で療養する人が増えるなか、訪問看護ステーションの数も増え続けています(写真: Jsme MILA / Pexels)

流れは次のとおりです。時期の目安は民間事業者の解説に共通する内容で、公的な標準スケジュールではありません。自治体や法人の状況によって前後します。

  1. 採用活動を始める(指定日の9か月以上前): 常勤換算2.5人以上の看護職員と、常勤の管理者を確保する。最も時間がかかる工程
  2. 法人を設立する(5〜6か月前): 新規法人で開設する場合。既存の医療法人・介護事業者の場合は、定款上の事業範囲を確認する
  3. 事務所を契約し、採用を内定する(3〜4か月前): 指定申請には平面図が必要なため、事務所の場所と間取りを先に固める
  4. 自治体に事前相談し、申請書類を作る(2〜3か月前): 必要書類や受付日は自治体で異なる
  5. 申請・審査・補正対応(1〜2か月前): 指定日は多くの自治体で月に1回の受付にあわせて決まる
  6. 紹介元へのあいさつを並行して進める(指定前から): 病院の退院調整部門、ケアマネジャー、在宅医との関係づくり

紹介元との関係づくりは、指定を受けてから始めると利用者が増えるのが遅れます。そのため、申請と並行して進めるのが一般的とされています。

指定基準の要点と、自治体に確認しておくこと

指定基準で押さえるのは、看護職員の人数、管理者、申請書類の3点です。指定は介護保険法にもとづき、都道府県(政令市・中核市では市)が行います。

人員については、大阪府の新規指定申請の案内によると、看護職員は常勤換算で2.5人以上(うち1人は常勤)、管理者は専らその職務に従事する常勤の保健師または看護師1人とされています。申請には、指定申請書、法人の登記事項証明書、従業者の勤務体制一覧表、資格証明書の写し、平面図、運営規程などが必要です。

常勤換算とは、非常勤の職員の勤務時間を常勤職員の勤務時間に換算して人数に数える方法です。たとえば週の所定労働時間が40時間の事業所で、週20時間勤務の職員は0.5人と数えます。

制度の詳細は自治体と専門家に確認を

申請の受付月、指定日、事前相談の要否、必要書類は、自治体ごとに異なります。また、診療報酬・介護報酬は改定されるため、数字や要件は最新の公的情報で確かめてください。法人格の要件(個人事業での開設可否を含む)や、医療法人が訪問看護を行う際の事業範囲は、管轄の窓口や行政書士・社会保険労務士などの専門家に確認しておくと安全です。

立ち上げ方の選択肢を比べる

立ち上げ方は、誰が主体か、どこまで既存の資源を使えるかで選びます。採用と集客のどちらを既に持っているかが、最も効く分かれ目です。

立ち上げ方概要向く状況確認しておく点
新規法人で指定を取る法人設立、事務所、人員確保、指定申請の順に進める個人や一般法人が独立して開業する設立・採用・申請を合わせて半年〜1年近く見込む解説が多い(民間)
既存の医療法人・介護法人の新事業定款の事業範囲を確認し、指定申請する病院・診療所・介護事業所が併設や多角化で行う医療法人の事業範囲は定款と自治体で確認(専門家確認)
病院・診療所が行う訪問看護ステーションとは別の枠組みで在宅支援を行う院内で小さく始めたい要件や報酬の扱いがステーションと異なる。詳細は自治体に確認
既存ステーションの譲受人員・利用者・紹介元を引き継ぐ採用と集客を早く立ち上げたい指定の承継や譲渡条件は自治体と専門家に確認

どれを選ぶかは、手元にある資源で変わります。たとえば病院を持つ法人なら、退院調整部門との関係という紹介元の強みが既にあります。一方で、新規法人で独立するなら、採用と紹介元づくりを自前で進める必要があります。

黒字化までの期間と運転資金をどう見るか

訪問看護は、開業すれば黒字になるとは言い切れない業態です。公的な調査の数字と民間の目安を分けて読むと、期待を置きすぎずに計画を組めます。

病院の廊下と赤い扉
紹介元である病院との関係づくりは、開業前から始めておきます(写真: RyanMcGuire / Pixabay)

事業所によって収支の差が大きく、赤字の事業所も一定数あることが、厚生労働省の介護事業経営実態調査で示されています。具体的な数値は調査年度によって変わるため、最新の値は厚生労働省の資料で確認してください。

平均の数字だけでなく、赤字の事業所がどの程度あるかも見ておく必要があります。規模の小さい事業所ほど赤字の割合が高いと報告されており、立ち上げ期の事業所がどちらに入るかは、最初の設計で変わります。

黒字化の期間や資金については、民間の開業支援事業者の解説に次のような目安があります。これは公的な統計ではなく、事業者の経験にもとづく数字です。

  • 単月黒字化までは、開業後半年〜1年半程度とするものが多い
  • 看護師3人体制で、利用者25人前後が損益分岐の目安とされる
  • 初期費用は事務所・設備・車両・システムで500万〜1,000万円程度(規模により上下)という目安がある
  • 運転資金は6〜12か月分を確保しておくという考え方がある

運転資金が重くなるのは、報酬の入金が提供した月の約2か月後になるためです。利用者が増え始める時期は、訪問件数が増えて人件費の支払いが先に膨らむので、資金が最も細りやすくなります。

単月黒字化を分解した図。単月黒字化(収入(利用者数、訪問件数、報酬の入金時期)、支出(人件費、事務所・車両))
単月黒字化を決める要素

この図のうち、利用者数は紹介元との関係に、訪問件数は看護師の稼働に、人件費は採用に、それぞれつながります。立ち上げ期に崩れやすいのは、この3つのどれかだと考えると、点検する順番が決まります。

開業前に決めておく見直しライン

見直しの基準は、開業前に文書で決めておくほうが迷いにくくなります。走り出してからでは、すでに払った初期費用が頭に残り、冷静に判断しにくいためです。

決めておく項目は次の4つです。

  • 黒字化の期限: 何か月目までに単月黒字にするか
  • 資金の下限: 運転資金が何か月分まで減ったら計画を見直すか
  • 稼働の下限: 利用者数や訪問件数が、いつまでにどの水準に届いていなければならないか
  • 見直しの場と人: 誰が、いつ集まって判断するか

撤退を検討する目安は、赤字の年数そのものではなく、参入時の前提が崩れたかどうかで置くという考え方が一般的です。たとえば「紹介元の病院から想定した件数の紹介が来ない」「採用が想定どおり進まない」といった前提の崩れを、あらかじめ書いておきます。すでに払った初期費用(サンクコスト)は回収できないため、判断の材料から外します。一方、撤退にかかる費用(契約の解除、職員の処遇、紹介元との信頼)は、別に確認しておく必要があります。

こんな人におすすめ / おすすめしない人

立ち上げを進める前に、自分の状況がどちらに近いかを見ておくと、計画の置き方が変わります。

この記事の進め方が合う人

  • 訪問看護の立ち上げを検討し始めて、順番と期間の目安をつかみたい方
  • 医療法人や介護事業者で、新事業として訪問看護を比べている方
  • 黒字化の期間や運転資金の考え方を、開業前に文書にしたい方

この記事だけでは足りない人

  • 特定の自治体への具体的な申請書類や日程が知りたい方(管轄の窓口に確認が必要です)
  • 診療報酬・介護報酬の個別の算定や、税務・法務の判断が必要な方(専門家に相談してください)
  • 費用の細かな内訳を知りたい方(初期費用と運転資金の詳細は別途確認を)

他分野の事例と失敗の型から考える

立ち上げの流れや制度は、公的資料と専門家で確かめられます。一方で、自分の地域と体制で、採用・紹介元・資金のどれが先に崩れやすいかは、医療分野の話だけを見ていても判断しにくいところです。訪問看護は、紹介元と報酬制度に収入が左右され、固定費の大きい専門職の人件費を稼働で回収する構造をもちます。この構造は医療以外の事業にも見られるため、他分野の失敗の型と照らすと、前提を確かめやすくなります。

ラトリスで見つかった失敗の型の例を2つ挙げます。

1つ目は、貨物航空会社のオレンジカーゴです(出典記事: オレンジカーゴ)。新しい需要を狙って小型機の貨物運送で開業したものの、貨物の需要が当初の予測を下回って採算が悪化し、資金繰りがつかなくなって2004年に破産宣告を受けたと記されています。深夜の路線設定や、中高年のベテラン操縦士の採用で体力面の負担が大きく、機長が不足して路線を縮小したとも記されています。この記事からは、需要の見込みの外れと、専門職の確保・負荷の問題が重なった例として読めます。専門職の稼働で成り立つ事業では、需要の見込みと人の負荷を同時に確かめておく考え方があります。

2つ目は、病院のPFM(入院前から患者情報を集める部門)です(出典記事: PFM〔医療〕)。経験豊富な看護師を多く必要とし人件費が増えますが、情報収集の機能だけでは人件費を賄いにくく、ベッドコントロールによる稼働率の向上があって初めて収益に貢献すると整理されています。病院内の部門の話であり、訪問看護と直接比べることはできません。ただ、看護師の人件費を稼働で回収する構造という点は似ています。

こうした出典付きの事例と失敗の型を、業界を越えて手元に揃える方法として、ラトリス(Latris)があります。ラトリスは、公共記事80万件規模を因果関係と構造パターンに変換した World Graph から、同じ構造をもつ他分野の事例と失敗の型を探す構造知検索サービスです。一文の問いを入力すると、次の5層のレポートが返ります。

  1. 問題の構造化: 誰が何をどう動かすかに翻訳する
  2. 関連知見: 前提の確認や相場観、論点の抜けを補う
  3. 構造の似た事例: 業界を越えた同型の事例を、参照元つきで示す
  4. 失敗の型: 同じ構造で起きた失敗のパターン
  5. 統合・示唆: 与件に照らした示唆と、避けたい型、次の一手

レポートのあとは、同じセッションで壁打ちを続けられます。たとえば「黒字化の期限をどこに置くか」「資金の下限をどう決めるか」といった論点を、そのまま詰めていけます。ラトリスが返すのは事例と失敗の型までで、判断は人が行います。医療制度の最新情報は、引き続き厚生労働省や自治体の公式資料で確認してください。

レポートの形はレポート例で確認できます。試してみたい方は、14日間の無料トライアル(開始時にクレジットカードの登録が必要)か、デモの依頼からどうぞ。

よくある質問

個人事業として訪問看護ステーションを開設できますか。

指定は法人であることが前提と説明する資料が多くあります。開設の可否や法人格の要件は、管轄の自治体の窓口と専門家に確認してください。

相談から開業まで、全体でどのくらいの期間を見ておけばよいですか。

民間の開業支援事業者の解説では、新規法人で半年〜1年近くを見込むものが多く見られます。採用の進み方と自治体の受付日で変わるため、管轄の窓口で受付日程を先に確認し、そこから逆算するのが実際的です。

訪問看護ステーションが増え続けているなら、今から参入するのは遅いのでしょうか。

事業所数は長期的に増加が続き、地域によっては競合が増えていると考えられます。ただし、需要や紹介元の状況は地域ごとに違います。参入の可否は全国の数字ではなく、対象地域の利用者数と既存ステーションの状況で確かめます。

補助金や融資は使えますか。

制度の内容や募集の時期は、年度や自治体で変わります。日本政策金融公庫や自治体、金融機関の窓口、商工会議所などで最新の情報を確認してください。借入を前提にする場合でも、返済が始まる時期と報酬の入金時期のずれは、資金計画に入れておく必要があります。

ラトリスで、訪問看護の制度や報酬の最新情報も調べられますか。

制度や報酬の最新情報は、厚生労働省や自治体の公式資料で確認するのが基本です。ラトリスは、公共記事を構造化した World Graph から、他分野を含む構造の似た事例と失敗の型を、参照元つきで確認するためのサービスです。


立ち上げの計画は、人員・紹介元・資金のどこが先に崩れるかを想定しておくことで、見直しのタイミングが決めやすくなります。判断の材料を揃えたいときは、レポート例から見てみてください。

実物の5層レポートを、無料でご覧いただけます

デモを依頼する14日間の無料トライアルもあります