新規事業

両利きの経営とは|既存事業を伸ばしながら新規を育てる難しさ

公開日 2026年9月30日読了目安 約11分執筆: ラトリス編集部

両利きの経営とは|既存事業を伸ばしながら新規を育てる難しさ

両利きの経営とは、既存事業を磨き込む「知の深化」と、既存の枠の外に踏み出す「知の探索」を、同じ組織で両立させる経営のことです。難しいのは考え方ではなく、探索が短期の数字に押されて数年のうちに打ち切られやすい点にあります。

両利きの経営の要点

  • 両利きの経営は、知の深化(既存事業の磨き込み)と知の探索(新しい領域の開拓)を両立させる考え方で、チャールズ・オライリーとマイケル・タッシュマンによる書籍『両利きの経営』で広く知られる
  • 深化は成果が早く読みやすく、探索は遅く不確実なので、同じ評価軸で測ると探索が先に潰れやすい
  • 実践の要件として、明確な戦略的意図、経営陣の関与、両立を支える組織構造、共通のビジョンや価値観があげられるのが一般的
  • 探索は、既存の顧客か技術のどちらかを共有する隣接領域から始めるのが一般的で、両方とも新しい非関連の領域は難度が高い
  • 同じ業界に前例が少ないときは、他分野で同じ構造だった事例と失敗の型を出典付きで確認しておくと、判断しやすくなる

この記事でわかることは次のとおりです。

  • 両利きの経営の意味と、知の深化・知の探索の違い
  • 探索側が潰れやすい構造(評価・資源・人材・知見)
  • 両立させる方式(組織を分ける方法と、分けない方法)の比較
  • 隣接領域から始める考え方と、資源配分・評価期間の置き方
  • 自社が同じ失敗の型に入っていないかを、他分野の事例で確かめる方法

主力事業が成熟してきて第二の柱を育てたいものの、既存事業との兼ね合いに迷っている経営者や事業責任者の方を想定しています。

両利きの経営とは何か

点灯した電球
既存の延長ではない発想を、どう事業に育てるかが両利きの経営の問いになる(写真: AJS1 / Pixabay)

両利きの経営とは、知の深化と知の探索の両方に取り組み、どちらか一方に偏らないようにする経営です。片方の手だけが利き手だと、成功している間は問題が見えず、環境が変わったときに動けなくなる、という発想が土台にあります。

この考え方を広めたのは、チャールズ・A・オライリーとマイケル・L・タッシュマンによる書籍『両利きの経営』(入山章栄 監訳・解説、東洋経済新報社。増補改訂版あり)です。版元の紹介では、成功の罠にはまった企業と変化に適応して成長した企業を対比しながら、既存事業の強化と、異なる能力が要る新規事業の開拓を両立する実践のポイントを示す本とされています。

ここで、二つの用語を定義しておきます。

  • 知の深化とは、一定の分野の知を継続して深掘りし、磨き込む行為です。既存の顧客・技術・事業を強くする取り組みがこれにあたります。
  • 知の探索とは、自社の既存の認知の範囲を超えて、遠くに認知を広げる行為です。新しい顧客・技術・市場に踏み出す取り組みがこれにあたります。

知の深化と知の探索は何が違うのか

深化と探索は、対象・成果の出方・評価の目安のすべてが違います。同じ物差しで測れないことが、両立を難しくしている最初の原因です。

項目知の深化知の探索
対象既存の顧客・技術・事業既存の枠の外(新しい顧客・技術・市場)
成果の出方早く、予測しやすい遅く、不確実
適した評価の目安収益・効率などの短期指標学習量・行動量・段階的な仮説検証など
主なリスク成功体験に縛られ、環境変化に対応できなくなる収益源が育つ前に資金が尽きる

深化に偏った組織が陥る状態は、コンピテンシー・トラップと呼ばれます。コンピテンシー・トラップとは、過去に成功した能力や手法に頼り続けた結果、新しい環境に合わせた変化ができなくなる状態です。

逆に探索ばかりを広げれば、まだ収益を生まない事業に資金が流れ続けます。深化は今日の利益を支え、探索は数年後の利益をつくるので、どちらかを削れば、時間差でもう一方にも響きます。

探索側が潰れやすい構造

探索が潰れるのは、担当者の力不足よりも、組織の仕組みが探索に不利にできているからです。よくある型は、評価軸の共通化、資源配分の偏り、人材の回収、知見の非蓄積の四つに整理できます。

探索が潰れる構造を分解した図。探索が潰れる構造(評価軸の共通化(既存と同じ短期の収益指標)、資源配分の偏り(予算が主力事業へ流れる)、人材の回収(担当者が既存部門に戻る)、知見の非蓄積(学びが組織に残らない))
探索が打ち切られやすい四つの構造

たとえば、立ち上げ期の新規事業を主力事業と同じ四半期の収益で測ると、赤字だけが目立ちます。数期のうちに「まだ見込みがない」と判断されて打ち切られ、優秀な担当者は既存部門に呼び戻されます。そのうえ検証で得た学びが記録されないので、次に探索を始めるときも同じところから試行錯誤することになります。

この構造は、悪意や無関心から生まれるわけではありません。既存事業の担当役員が限られた人員と予算を主力に集めたいと考えるのは、収益を支えている以上、筋の通った判断です。探索の側にも、取り組まなければ数年後に市場から取り残されるという、もっともな理由があります。両者の言い分がどちらも正しいために、社内の調整だけでは決まりにくいのです。

芽吹いたばかりの若い苗
収益を生む前の探索を、どこまで守るかが分かれ目になる(写真: Ruslan Alekso / Pexels)

両立させる方式の比較

両立の方式は、組織を分けるか、分けずに個人で切り替えるかで大きく二つに分かれます。どれが合うかは、既存事業と探索の評価軸や文化がどれだけ違うか、組織の規模がどの程度かで決まるという考え方が一般的です。

方式内容向く状況の目安注意点
構造的両利き(組織分離)探索ユニットを別組織にし、経営トップが統合する。オライリーとタッシュマンが示した考え方既存事業と探索で評価軸・文化が大きく違う別組織の孤立、既存事業との距離の取り方、統合する経営陣の負荷
文脈的両利き個人が日々の業務のなかで、探索と深化を切り替えられる制度や文化を設計する。ギブソンとバーキンショウ(2004)の立場とされる組織を分けにくい小規模な組織個人の負荷が大きい、短期評価に引っ張られやすい
時間的な切り替え一定期間ごとに、深化と探索の重点を入れ替える環境の変化が緩やかな場合切り替えるタイミングが遅れやすい

組織を分ける方式では、探索と深化のユニットを分けつつ、リソースは共有しながら同時に進めるアプローチが紹介されています。分けたうえで、経営トップが両方を見て統合する役割を担う点が肝心です。

解説記事などでは、実践の要件として次の四つがよくあげられます。

  • 明確な戦略的意図(なぜ探索をやるのかが言葉になっている)
  • 経営陣の関与とサポート
  • 両利きを支える組織構造
  • 組織を貫く共通のアイデンティティ、ビジョン、価値観

なお、探索側の評価については、四半期などの短期の成果目標を課さず、行動量や学習量を評価に入れるなど、事業のフェーズに合わせた設計が必要とされています。ここは例として紹介されているもので、自社の制度に当てはめる際は、人事の専門家などと確認しながら進めるのが安全です。

探索は何から始め、どう配分するか

探索は、既存の顧客か技術のどちらかを共有する隣接領域から始めるのが一般的です。顧客も技術も両方新しい非関連の領域は難度が高く、既存事業の強みが使えないまま、学ぶことが一度に増えてしまいます。

たとえば、地方の食品メーカーを想定します。既存の販路に新しい商品を流す(顧客を共有する)、既存の加工技術を別の用途の顧客に届ける(技術を共有する)という広げ方は、隣接領域にあたります。販路も技術も持たない分野に一気に出ることは、非関連の領域に踏み出すことになります。

資源配分と時間軸は、次の点を先に置いておくと揉めにくくなります。

  • 探索に回す予算と人員の上限を、期の途中で動かさないルールにしておく
  • 打ち切りの条件(何が確認できなければ止めるか)を、始める前に決める
  • 評価の時間軸を「収益が出るまで」ではなく「仮説が検証されるまで」の段階で区切る
  • 学んだ内容を、事業が続くかどうかにかかわらず記録に残す

打ち切りの条件を先に決めるのは、探索を続けるためでもあります。基準がないまま続けると、赤字が続いたときに「なんとなく止める」判断になりやすいからです。

他分野の事例と失敗の型から考える

同じ業界の事例だけを見ていても、探索が潰れる型は見えにくいものです。上位の解説は成功企業の紹介に偏りがちなので、構造が同じ他分野の事例と、失敗の型を出典つきで確認する方法が役に立ちます。

ラトリス(Latris)のWorld Graphには、公共記事から変換した事例が収録されています。今回の問いを構造に直して探したところ、両利きの経営の成功例と呼べるものは多く見つかりませんでした。それでも、型の参考になる記述はありました。

  • 新聞用輪転機を扱うマンローランドゴスウェブシステムズジャパンの記事には、新聞市場の縮小に対応できず、新規の製造機能を失って、既存顧客向けの部品販売とアフターサービスが主力になったと記述されています。深化の部分だけが残り、新しい柱をつくる機能が先になくなった型として読めます。
  • デロンギの記事には、暖房機器・空調から小型電気機器へ対象を広げたことと、直営店(レストラン併設)が現在は閉店していることが記述されています。探索を広げても一部は続かないことがあり、何を残すかの判断が要る、という点の参考になります。

どちらも、個社の経営判断の良し悪しを示すものではありません。出典記事に書かれている事実の範囲で、構造の似た事例として読むものです。

ただ、こうした事例を自力で探すのは手間がかかります。業界の言葉で検索すると同業の話ばかりが出るので、ラトリスは「誰が何を動かし、どこで詰まったか」という構造で探します。5層レポートでは、次の順に整理されます。

  1. 問題の構造化(誰が・何を・どう動かすか)
  2. 関連知見(前提の確認、相場観、論点の抜けの補足)
  3. 構造の似た事例(業界を越えた事例、参照元記事つき)
  4. 失敗の型(同じ構造で起きた失敗パターン)
  5. 統合・示唆(自社の与件に照らした示唆と避けたい型)

問いの立て方によって、返ってくる事例の近さは変わります。今回のように直接の事例が薄いときは、問い方を変えて何度か確かめる使い方になります。レポートのあとは同じセッションで壁打ちを続けられ、判断そのものは人が行います。

レポートの形はレポート例で、仕組みはこちらで確認できます。料金は月額98,000円(税別)/1利用者で、14日間の無料トライアルがあります(開始時にクレジットカードの登録が必要で、Claudeの契約は別途必要です)。自社の問いで試したいときは、デモの依頼もできます。

こんな人におすすめ / おすすめしない人

両利きの経営の考え方は、主力事業がまだ稼げているうちに次の柱を考えたい人に合っています。逆に、次のような場合は、考え方を当てはめる前にやることがあります。

おすすめの人

  • 主力事業が成熟してきて、第二の柱を検討している経営者・事業責任者
  • 既存事業と新規事業のあいだで、予算や人員の配分に迷っている人
  • 新規事業が数期で打ち切られた経験があり、原因を構造で整理したい人
  • 同業に前例がなく、他分野の事例を参考にしたい人

おすすめしない人

  • 主力事業そのものが急激に悪化していて、まず事業の継続可否を決める必要がある人(撤退や再構築の判断が先になります)
  • 探索に回せる人員や資金が、ほぼ確保できない人(方式より先に、資源の見通しを立てる必要があります)
  • 書籍の内容を、そのまま自社の制度として導入すれば成果が出ると考えている人(自社の事情に合わせた設計が要ります)

よくある質問

両利きの経営は、中小企業でも使えますか。

考え方自体は規模を問いません。ただし、組織を分ける方式は人員に余裕がないと難しいため、小規模な組織では、個人が探索と深化を切り替える文脈的両利きの考え方が合う場合があります。経営者自身が探索の窓口になる形も、現実的な選択肢のひとつです。

知の探索は、新規事業と同じ意味ですか。

同じではありません。知の探索は新しい知識や視点を得る行為で、新規事業はその成果を事業の形にしたものです。既存事業のなかでの新しい顧客層の試みや、技術の応用研究も、探索に含まれます。

探索を打ち切る目安は、どう決めればよいですか。

始める前に「何が確認できなければ止めるか」を言葉にしておく方法があります。売上の金額よりも、顧客の反応や仮説の検証結果など、段階ごとに確かめる項目を置くと判断しやすくなります。撤退の考え方は、事業撤退の判断基準と共通する部分があります。

両利きの経営の実施企業は、どのくらいありますか。

日本国内での実施率を示す統計は確認できていないため、数字は挙げられません。書籍や解説記事には個別企業の事例が紹介されていますが、成否の評価は出典や前提によって変わります。

ラトリスを使えば、自社に合う両利きの形がわかりますか。

ラトリスが返すのは、構造の似た他分野の事例と失敗の型を出典つきで整理したものです。自社に合う形を決めるのは人で、レポートはその判断材料として使います。


両利きの経営では、両立の形を決めるより先に、探索を守る仕組みを置いておくという考え方が一般的です。他分野の事例で同じ型に入っていないかを確かめてから、自社の設計に進むと判断しやすくなります。

実物の5層レポートを、無料でご覧いただけます

デモを依頼する14日間の無料トライアルもあります