経営フレームワーク

アンゾフの成長マトリクスの事例|4つの戦略と多角化の落とし穴

公開日 2026年10月2日更新日 2026年10月3日読了目安 約13分執筆: ラトリス編集部

アンゾフの成長マトリクスの事例|4つの戦略と多角化の落とし穴

アンゾフの成長マトリクスは、成長の方向を「製品(既存・新規)×市場(既存・新規)」の4つに分けて整理する枠組みです。4つの中で失敗しやすいのは、製品も市場も新しくなる多角化で、理由は「既存の強みが新しい場所でも通用する」という前提が外れやすいことにあります。

アンゾフの成長マトリクスの要点

  • 4つの方向は、市場浸透(既存製品×既存市場)、新市場開拓(既存製品×新規市場)、新製品開発(新規製品×既存市場)、多角化(新規製品×新規市場)
  • 左の3つは既存の顧客・技術・販売網を流用しやすく、投資を段階的に抑えて確かめやすい
  • 多角化は顧客も技術も新しくなるため、既存資産が通用しにくい。既存の顧客か技術のどちらかを共有する「隣接領域」から始める考え方が一般的
  • 近い方向でも、競争の構造が同じなら失敗する。枠は方向を整理するだけで、前提が成り立つかは別に確かめる必要がある

この記事でわかること:

  • アンゾフの成長マトリクスの4象限と、それぞれの事例の見方
  • 出典のある事例を象限に当てはめて整理する方法
  • 多角化で失敗しやすい理由と、事前に確かめること
  • 枠組みの使いどころと限界、PPM・SWOT などとの使い分け
  • 前提が外れたときの事例を、他分野から探す方法

想定している読者は、主力事業の伸びが止まり、次の成長の方向を決めようとしている経営者・事業責任者・経営企画の方、そして社内検討資料を作るコンサルタントです。

アンゾフの成長マトリクスとは

アンゾフの成長マトリクスとは、企業の成長の方向を「製品」と「市場」の2軸で4つに分ける枠組みです。経営学者のイゴール・アンゾフが1957年に論文で提示し、1965年の著書『Corporate Strategy』で展開したと紹介されています。

山頂に向かって歩く登山者
どの方向へ登るかを決めてから、装備と日程を考える。成長の方向の整理もこれに近い作業です(写真: Pexels / Pixabay)

縦と横にそれぞれ「既存」と「新規」を置くと、4つの区画ができます。

方向製品市場既存資産の使いやすさ(一般的な整理)検討時に確かめること
市場浸透既存既存高い競合との値下げ競争になっていないか。シェアを取る余地が実際にあるか
新市場開拓既存新規中程度新しい地域・顧客層で製品が通用するか。販売網・規制・文化の違い
新製品開発新規既存中程度既存顧客がその新製品を求めているか。開発の資源を確保できるか
多角化新規新規低い先行する専業との差を埋める時間と資金。見直しの条件

「製品」と「市場」の境界の引き方で、同じ施策がどの区画に入るかは変わります。たとえば同じ製品の海外販売は新市場開拓ですが、現地の顧客に合わせて製品を大幅に作り替える必要があるなら、多角化に近づきます。多角化は、製品も市場も新しい場合を指します。区画に当てはめること自体が目的ではなく、「どの資産がどこまで使えるか」を考えるための整理だと捉えておくと使いやすくなります。

多角化は、さらに2つに分けて考えられます。

多角化を分解した図。多角化(関連多角化(顧客を共有する、技術を共有する)、非関連多角化(顧客も技術も新しい))
多角化の内訳(一般的な整理)

既存の顧客か技術のどちらかを共有できる関連多角化(隣接領域)から始めるのが一般的で、両方とも新しい非関連多角化は難度が高いとされています。

4つの戦略の事例

象限ごとの事例は、出典を確認できる記事の事実を当てはめて整理します。個社の評価ではなく、「この方向にはこういう動きがある」という整理が目的です。

新製品開発(既存市場×新製品)

東京・新橋の老舗「新橋玉木屋」の記事には、座禅豆を売り出した店が、三代目のときに佃島の漁師の保存食に着目して「つくだ煮」を作り、江戸の通人の好みに合って繁盛したと記されています(出典: 新橋玉木屋)。既存の店と客層、煮物の製法という手元の資産の延長で新しい製品を出した例として、新製品開発に当てはめられます。

ただし、記事は繁盛の経緯を述べているだけで、投資の規模や見直しの条件までは書かれていません。この一件だけで「近い方向は成功しやすい」とまでは言えません。

新製品開発と多角化のあいだ

イギリスのマーチンベーカー・エアクラフトの記事には、航空機製造として出発した会社が、試作機計画の放棄や、軍用機の仕様に採用されなかった経験を経て、のちに射出座席に特化した企業へ転換したと記されています(出典: マーチンベーカー・エアクラフト)。主力の見込みが外れたあとも、航空という同じ文脈と取引先との関係を足場に、別の製品へ向かった流れです。

顧客も技術もまったく別の分野へ跳んだ例ではなく、新製品開発と多角化の中間にあたる、と読むこともできます。この分類は読み手の解釈で、記事が示しているものではありません。

市場浸透(既存市場×既存製品)

ハンバーガーチェーンのバーガーシティは、駅前の小面積店舗を多数展開して1980年代に急成長しましたが、1990年代に大手チェーンが出店を拡大し、値下げ攻勢もあって価格・サービス面で対抗できなくなり、1998年に倒産に至ったと記されています(出典: バーガーシティ)。

同じ市場でシェアを取りにいく市場浸透は、既存資産を使いやすい一方で、資本力の差がある相手との値下げ競争になりやすい、という注意点を示す例です。

業種だけの仮の例で4象限を並べる

ここからは実在の事例ではなく、業種だけの仮の例です。地方の食品メーカーが、主力の既存商品の伸びが止まった場面を想定します。

方向取りうる動きの例
市場浸透既存の取引先での取扱い品目を増やす。既存商品の売り場を広げる
新市場開拓同じ商品を別の地域や、飲食店・通販といった新しい販路に出す
新製品開発既存の取引先が求める新しい味や容量の商品を作る
多角化食品とは別の分野で、新しい顧客に新しい商品を売る

上の3つは、取引先・製造設備・ブランドといった手持ちの資産を流用できます。最後の多角化だけは、顧客も技術も一から築くことになります。

多角化で失敗しやすい理由

多角化で失敗しやすいのは、既存の顧客基盤・技術・販売網という資産が、新しい分野でそのまま通用しないためです。理由は大きく3つに分けて整理できます。

  1. 先行する専業との差: 専業の競合は、知識や取引関係を長年かけて積み上げています。そこへ追いつくまでの時間と資金は、参入前の見積もりより大きくなりがちです。
  2. 人材と資金の分散: 成長への焦りから遠い分野に手を広げると、本業に回すはずの人材と資金が分散し、本業まで弱るおそれがあります。
  3. 撤退の難しさ: 投資が大きいほど、過去の投資を回収したい気持ちが働き、見直しが遅れる傾向があります。サンクコスト(回収できない過去の投資)は判断材料から外す、という考え方が広く知られています。

中小企業庁の「中小企業白書」にも、新事業展開で既存事業の経営資源を活用した企業のほうが、成長への寄与を実感しやすいという趣旨の分析があります。各年版の記述は異なるため、数値や図表は原典で確認してください。

「多角化は必ず失敗する」という意味ではありません

多角化が失敗しやすいと言っても、成功例がないわけではありません。確かめたいのは、自社の何が新しい分野で効くのか、効かなかったときにどこで見直すのかです。この2点が決まっていないまま進めると、判断が遅れやすくなります。

多角化を検討するときに、事前に確かめておくと判断しやすい項目は次のとおりです。

  • 新しい顧客に、自社の既存の強みが実際に価値として伝わるか
  • 先行する専業との差を、どのくらいの期間と資金で埋めるつもりか
  • 本業から人材と資金をどこまで回すか、その上限
  • 想定どおり進まなかったとき、何を見て見直す(縮小・撤退を含む)と決めておくか

アンゾフの成長マトリクスの使い方

分かれ道の前で地図とコンパスを見比べる様子
方向を決めたあとも、地図と現在地を見比べ続けることになります(写真: e-zara / Pixabay)

使い方は、方向を整理し、それぞれで使える資産を書き出し、前提と見直しの条件を決める、という順番が基本です。

  1. 製品と市場の境界を決める: 自社が何を「製品」、誰を「市場」と呼ぶかを先に揃えます。境界の引き方で区画が変わるためです。
  2. 4つの区画に候補を置く: 社内から出ている施策や案を、4つの区画に振り分けます。空いている区画も見つけられます。
  3. 区画ごとに使える既存資産を書き出す: 顧客基盤・技術・販売網・ブランドのうち、その方向で通用するものを具体的に書きます。
  4. 前提と見直しの条件を決める: 「既存の強みが新しい場所でも通用する」という前提を言葉にし、外れたと判断する目印を先に置きます。
  5. 小さく試して確かめる: 近い方向から段階的に投資し、前提が成り立つかを確かめながら次へ進みます。

特に手順4は、枠の外で行う作業です。アンゾフの成長マトリクスは「どこへ向かうか」を整理しますが、その方向で既存の強みが効くかどうかは教えてくれません。

使いどころと限界、近い枠組みとの使い分け

アンゾフの成長マトリクスが答えられるのは「成長の方向にどんな選択肢があるか」で、答えられないのは「どの方向が当たるか」「いくら投資するか」です。投資額や成功確率は出さず、競合の動きも含みません。

限界は、次のように整理できます。

  • 製品と市場の境界の引き方で、同じ施策の区画が変わる
  • 競合の動きが入っていないため、同じ土俵での値下げ競争は見えない
  • 既存資産が新しい方向で通用するかは、枠の外で確かめる必要がある

そのため、近い枠組みと組み合わせて使う例が多く見られます。

枠組み何を整理するかアンゾフとの関係
アンゾフの成長マトリクス成長の方向を4つに分ける「どこへ向かうか」の整理
PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)事業間の資金配分方向が決まったあと、どの事業に資金を回すか
SWOT・3C自社と環境・競合・顧客の現状方向を選ぶ前に、強み・弱みと市場を確認する
5フォース分析業界の収益構造参入先の業界が儲かる構造かを確認する

アンゾフで方向を絞ったあと、5フォースやSWOTで参入先と自社の現状を確認し、PPMで資源配分を考える、という順番で使うと役割が重なりにくくなります。

前提が外れた事例から考える

アンゾフの成長マトリクスが出すのは「既存の強みが新しい場所でも通用する」という前提を置いたときの整理で、判断を誤るのはこの前提が外れたときです。外れ方の例は、自分の業界だけを見ていても集まりにくいものです。

たとえば、剣道防具メーカーのオガタ武道具工業の記事には、海外での評価が高く、輸出や代理店網を持ち、中国・韓国・台湾などで早くから製造もしていた一方で、価格競争の激化などを理由に2011年に事業を停止し、破産手続開始の決定を受けたと記されています(出典: オガタ武道具工業)。

アンゾフの枠に当てはめれば、新市場開拓(海外)にあたる動きです。方向は整理できていても、同じ土俵で価格を競う構造が残ると消耗しやすい、という失敗の型の一例として読めます。また、新製品で既存市場に新しい価値を出せない場合は、価格競争になって企業の体力を削る傾向がある、と差別化戦略の解説記事にも記されています(出典: 差別化戦略)。どちらも、枠に当てはまるだけでは足りず、前提を別に確かめる必要があることを示しています。

こうした事例を自社の業界の中だけで探すと、数が少なく、同じ前提の話になりがちです。ラトリス(Latris)は、「同じ言葉」ではなく「同じ構造」で、業界を越えた事例を探す構造知検索サービスです。公共記事80万件規模を因果関係と構造パターンに変換した World Graph から、入力した一文の問いに対して5層レポートを返します。

層名称この記事の問いでは
①問題の構造化「誰が・何を・どう動かすか」に翻訳し、既存の強みと新しい方向の関係を整理する
②関連知見成長方向の選び方について、前提の確認や相場観を集める
③構造の似た事例業界を越えた同型事例と、分岐点を出典付きで示す
④失敗の型同じ土俵での消耗、前提の持ち込みなどの失敗パターンを示す
⑤統合・示唆自社の与件に照らして、効きそうな軸と避けたい型を整理する

問いの例としては、「既存顧客への販売が飽和した製造業が、新しい市場と製品に出るとき、先行する専業との差をどう埋め、どこで見直したか」のような形が考えられます。レポートは参照元の記事を明示しますので、事例の中身を自分で確認できます。判断は人が行い、ラトリスは判断材料を揃える役割です。同じセッションで壁打ちを続け、見直しの条件の叩き台を作ることもできます。

レポートの例で出力の形を確認できます。試してみたい場合は、14日間の無料トライアル(開始時にクレジットカード登録が必要)を料金ページから、社内で説明を聞きたい場合はデモ依頼から申し込めます。ご利用には、別途 Claude の契約が必要です。

こんな人におすすめ / おすすめしない人

アンゾフの成長マトリクスは、成長の方向を整理する最初の一手として向いています。

こんな人におすすめです。

  • 主力事業の伸びが止まり、次の方向を社内で整理したい経営者・事業責任者
  • 多角化を検討しており、隣接領域か非関連かを切り分けたい人
  • 社内検討資料の骨組みとして、成長の選択肢を一枚にまとめたい経営企画・コンサルタント

おすすめしない人もいます。

  • 枠に当てはめれば方向の優劣が決まると期待している人。優劣や成功確率は、この枠からは出ません
  • すでに方向が決まっていて、投資額や回収期間を詰める段階にある人。その場合は NPV など財務の指標のほうが合います

よくある質問

アンゾフの成長マトリクスは誰がいつ提唱しましたか

経営学者のイゴール・アンゾフが1957年に論文で提示し、1965年の著書『Corporate Strategy』で展開したと紹介されています。論文の誌面そのものは、原典を確認されることをおすすめします。

市場浸透と新市場開拓はどう見分けますか

製品が同じで、今の顧客や市場の中でシェアを上げるなら市場浸透、新しい地域や顧客層に出るなら新市場開拓です。境界は企業ごとに引き方が違うため、社内で「市場」の単位を先に決めておくと迷いません。

多角化は避けたほうがよいのでしょうか

避けるべきとは言えません。既存の顧客か技術のどちらかを共有できる隣接領域から始め、見直しの条件を先に決めておく、という進め方が取られています。

中小企業でもアンゾフの成長マトリクスは使えますか

使えます。大企業向けの枠ではなく、方向を整理するだけの枠なので、従業員数に関係なく使えます。中小企業の場合は、使える経営資源が限られるため、手順3で「使える資産」を具体的に書き出すことが特に効きます。

象限ごとの成功事例を調べるには、どうすればよいですか

自社と同じ業界の事例は数が限られるため、業界を越えて「構造が似ている」事例を探す方法があります。企業の公式資料や報道を確認する際は、成功の経緯だけでなく、投資規模や見直しの条件が書かれているかも見ておくと参考にしやすくなります。


アンゾフの成長マトリクスは方向を整理し、確かめるべき前提を浮かび上がらせます。前提が成り立つかどうかは、他分野の事例と失敗の型で確かめておくと、判断しやすくなります。

実物の5層レポートを、無料でご覧いただけます

デモを依頼する14日間の無料トライアルもあります