事業ポートフォリオ図の作り方|軸の選び方で結論が変わる

事業ポートフォリオ図は、事業の単位、市場の範囲、軸、丸の大きさの4つを決めれば描けます。ただし位置は、この4つの置き方で動きます。図は結論ではなく、資源配分を議論する入口として使うのが一般的です。
作図そのものは難しくありません。むしろ、描いたあとに事業部長どうしで位置をめぐって議論になったり、図に映らない事業間のつながりを見落としたりする場面のほうが、実務では手間がかかります。この記事では、その手前の「軸の決め方」を中心に説明します。
事業ポートフォリオ図の要点
- 作図に必要な決めごとは、事業の単位・市場の範囲・軸・丸の大きさの4つ
- 事業の切り方や市場の定義を変えるだけで、同じ事業の位置が動く
- 市場成長率と相対市場シェアの図(PPM)だけでは、事業間の顧客・技術・人材の共有や撤退コストが見えない
- 軸を変えた図を複数並べ、位置が動く事業を先に議論すると、前提の置き方の違いが見つかる
- 図の位置だけで縮小を決めず、他事業への影響を確かめてから資源配分を決める
この記事でわかること
- 事業ポートフォリオ図の作り方(5つの手順)
- PPM、9セルの図、自社設計の図の違いと、軸の選び方
- 図に映らない情報と、その確かめ方
- 図をもとに「何を残し何を変えるか」を決める進め方
- 判断に迷うときに他分野の事例を参照する方法
想定読者: 複数の事業を持つ会社の経営企画、事業責任者、経営者の方。社内会議に出す一枚の図を作る段階にいる方を想定しています。
事業ポートフォリオ図とは、事業の位置を一枚に並べた図
事業ポートフォリオ図とは、複数の事業を二つの軸の上に円で並べ、どこに資金や人を投じるかを考えるための図です。円の大きさには、一般に事業の売上高を使います。
有名なのは、市場成長率を縦軸、相対市場シェアを横軸にした4象限の図です。解説記事によれば、1970年代にボストン・コンサルティング・グループ(BCG)が提唱したとされ、「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」の4つに事業を分類します。これをプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)といいます。
この図が答えるのは、資金の出入りを一枚で見たときにどの事業が稼ぎ、どの事業が資金を必要としているかです。どの事業を残し、どの事業を変えるかという判断そのものは、図だけでは決まりません。
経済産業省は2020年7月に「事業再編実務指針」(事業再編ガイドライン)を公表しています。事業ポートフォリオの見直しを取締役会や投資家との対話でどう扱うかも含めた内容で、主な対象は多角化した大規模な上場企業グループです。中堅企業でも考え方は参考になりますが、本文の詳細は原文で確認してください。

作り方は5つの手順。特に最初の2つで結論が決まる
作図の手順は、事業の単位を決め、市場を定義し、軸に配置し、方針を仮置きし、最後に図に映らない情報を重ねる、という順に進めます。後ろの3つは表計算ソフトで作業できますが、前の2つは人の判断が入ります。
- 事業の単位を決める: 事業部、製品群、顧客セグメントのどれで切るかを決めます。管理会計の区分に合わせると数字が集めやすくなります。
- 市場の範囲を定義する: それぞれの事業がどの市場で戦っているかを決め、市場成長率と相対市場シェアを出します。
- 軸に配置し、丸の大きさを決める: 二つの軸に事業を置き、円の大きさは売上高か投下資本にします。
- 象限ごとの資金配分の方針を仮置きする: 稼ぐ事業から資金を回す、育てる事業に投じる、といった方針をまず仮に置きます。
- 図に映らない情報を重ねて確かめる: 事業間で共有する顧客・技術・人材、撤退コスト、投資の回収にかかる時間を重ね、仮の方針が成り立つかを確認します。
この5つで決めることを、分解して見ると次のようになります。

事業の単位と市場の範囲は、どちらも正解が一つに決まりません。ここが図の恣意的になりやすい部分で、次の節で扱います。
軸と市場の定義を変えると、事業の位置と結論が動く
同じ事業でも、市場を広く取るか狭く取るかで市場成長率と相対市場シェアが変わり、象限が入れ替わります。これが、事業ポートフォリオ図の結論が軸の選び方に左右される理由です。
業種だけの仮の例で考えます。地方の製造業グループで、ある部品事業を「自動車向け部品市場」で見ると、シェアは小さく「負け犬」に置かれたとします。一方、同じ事業を「特定の加工技術を要する部品市場」と狭く定義すると、シェアは高くなり「金のなる木」に近づきます。事業は同じで、市場の定義が違うだけです。
軸そのものを変える方法もあります。代表的な4つの型を比べると、次のようになります。
| 図の型 | 軸 | 丸の大きさ | 向く場面 | 注意点 |
|---|---|---|---|---|
| PPM(BCG) | 縦: 市場成長率 / 横: 相対市場シェア | 売上高 | 多角化した会社の資金の出入りを見る | シナジーを考慮できない。市場の定義で位置が動く |
| GE・マッキンゼーの9セル | 縦: 市場の魅力度 / 横: 競争力(いずれも複数項目の総合) | 市場規模など | 成長率とシェアだけでは判断しにくい事業を評価する | 項目の重みづけが主観に寄りやすい。データ収集に手間がかかる |
| 収益性×成長性(自社設計) | 縦: 成長率 / 横: 利益率やROIC | 投下資本や売上 | 資本効率を意識して見直す | 指標の定義を揃える必要がある。業種で水準が違う |
| 資源・シナジー軸(自社設計) | 事業間で共有する顧客・技術・人材、撤退コスト、回収時間 | 投下資源 | 縮小や売却の前に他事業への影響を確かめる | 数字にしにくい。事業部間の合意が要る |
9セルの図は、解説記事によれば1970年代にGEとマッキンゼーが開発したとされます。詳細は各社の公開資料で確かめてください。
軸の選び方の目安は、「何を決めたいか」から逆算することです。資金の出入りを見たいならPPM、事業の魅力と強みを総合で見たいなら9セル、資本効率が論点なら収益性の軸を入れます。縮小や売却を検討しているなら、資源・シナジーの軸を入れた図を別に作ります。
実務では、軸を変えた図を2〜3枚並べる方法があります。どの図でも位置が変わらない事業は前提に左右されにくく、図によって位置が動く事業は、前提を確認する優先度が高いという見方です。
図に映らない情報が、資源配分の判断を左右する
事業ポートフォリオ図で見えにくいのは、事業間で共有している顧客基盤・技術・人材と、撤退や縮小にかかるコスト、投資を回収するまでの時間です。PPMの一般的な限界として、シナジーを考慮できない点や、定性的な要素を評価しにくい点が挙げられています。
具体的に、確認しておきたい項目は次の4つです。
- 顧客の共有: 縮小する事業の顧客が、他の事業の顧客でもないか。顧客接点をその事業が担っていないか
- 技術・設備の共有: 生産技術や設備、ノウハウが他の事業の土台になっていないか
- 人材の食い合い: 成長事業に人を移すとき、元の事業の現場が回るか。同じ人材を複数の事業が取り合っていないか
- 撤退コストと回収時間: 契約の解消、人員の再配置、取引先や顧客の信用への影響と、成長事業が回収に入るまでの年数
こうした情報が映らない背景には、事業部ごとに数字を集める組織の仕組みがあります。事業部制のように単位ごとに区切ると、事業部をまたぐ活動が行いにくくなる点は、組織論の解説でも指摘されています。図の作成を各事業部に任せるだけでは、つながりの情報は集まりにくいと考えておくと、確認の段取りを組みやすくなります。
確認は、事業部長との個別の聞き取りと、共有資源の一覧づくりで進める方法があります。一覧は「顧客」「技術」「人」「設備」の4列で、各事業がどれを使っているかを印で書き込む程度で足ります。
図をもとに何を残し何を変えるかを決める進め方
事業再構築の判断では、先に「何を残し、何を変えるか」を決めるのが一般的です。事業ポートフォリオ図は、その候補を並べる材料として使います。
進め方の一例は次の流れです。まず、図の位置と共有資源の一覧を並べて、残す事業(稼ぐ事業と、他事業の土台になっている事業)、育てる事業、見直す事業に仮分けします。次に、見直す事業について、縮小・売却・統合・現状維持のそれぞれで他事業にどう影響するかを確かめます。最後に、移行期間の体制と判断の基準を決めます。
決めておくとよいのは、次の3点です。
- 見直しの頻度: 年に1回か、半期ごとか。市場の変化が速い事業は短くする
- 出席者: 経営陣と事業部長に加え、共有資源を持つ部門(技術・人事・営業)も入れる
- 判断基準: 図の位置だけでなく、シナジーや撤退コストの確認結果を基準に含める
業界に前例がない事業の組み替えでは、同じ業界の事例が見つかりません。そのときは、他の業界や分野で、同じ構造の判断がどう進んだかを参照する方法があります。次の節で説明します。
なお、事業の切り出しや売却に伴う会計処理(のれんの減損、セグメント情報の区分など)は、基準や個別事情で変わります。会計士・税理士に確認してください。

他分野の事例と失敗の型から考える
図の位置だけで判断した結果、後から困る型は、事業ポートフォリオに限らず他の分野でも記録されています。ラトリス(Latris)のWorld Graphに収録された記事から、二つを紹介します。
一つ目は、「プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント」の記事です。縦軸を市場成長率、横軸を相対的市場占有率として4象限に分ける手法を解説し、「負け犬」に深入りして撤退の時期を誤ると損失の増大をもたらす、という趣旨が書かれています。象限に置かれた事業への深入りと撤退時期の誤りが、この手法の失敗の型として説明されているということです。
二つ目は、「組織 (社会科学)」の記事です。事業部制のように単位ごとに区切る組織では、不要な競争が生じたり、事業部をまたぐ活動が行いにくくなったりする点が指摘されています。前の節で触れた、図に映らない事業間のつながりが見落とされやすい構造と重なります。
こうした失敗の型は、自分の業界の事例だけを調べていると出会いにくいものです。一般的な検索エンジンは同じ言葉を含む記事を返すので、「軸の取り方で結論が変わった」という構造を、別の分野から探すのには向きません。
ラトリスは、「同じ言葉」ではなく「同じ構造」で他分野の事例を探す構造知検索サービスです。一文の問いから、次の5層のレポートを出典付きで返します。
- 問題の構造化: 誰が何をどう動かすかに翻訳する
- 関連知見: 前提の確認や、論点の抜けを補う
- 構造の似た事例: 業界を越えた事例を、類似点と相違点つきで示す
- 失敗の型: 同じ構造で起きた失敗のパターンを示す
- 統合・示唆: ①〜④を与件に照らして整理する
レポートの後は、同じセッションで壁打ちを続けられます。たとえば「図の軸を変えた場合の論点表」を叩き台にする使い方です。判断は人が行い、ラトリスは判断材料を出典付きで揃える役割です。レポートの例はこちらで見られます。
14日間の無料トライアル(開始時にクレジットカードの登録が必要)は料金ページから、自社の状況に合わせたデモは問い合わせページから依頼できます。Claude(Opus・拡張思考)の契約は別途必要です。
こんな人におすすめ / おすすめしない人
こんな人におすすめ
- 複数事業の資源配分を、社内で説明する一枚の図にまとめたい経営企画の担当者
- 事業部間で位置をめぐる議論が起きていて、前提を揃えたい事業責任者
- 縮小や売却を考えていて、他事業への影響を確かめてから決めたい経営者
- 業界に前例がなく、他分野の同型事例を参考にしたい方
おすすめしない人
- 事業が一つか二つで、事業間の資源配分を考える段階にない方(まず事業ごとの収益構造の確認が先です)
- 図の位置だけで、縮小や撤退を自動的に決めたい方(この記事の立場とは合いません)
- 上場企業グループの制度対応が主題の方(事業再編ガイドラインの原文と専門家の確認が先です)
よくある質問
丸の大きさは売上と投下資本のどちらにすべきですか。
売上高を使うことが多いものの、資本効率が論点なら投下資本のほうが合います。売上の大きい事業でも、投下資本が大きければ効率は別問題になるためです。図の目的を先に決め、途中で基準を変えないようにします。
Excelで作るときのポイントはありますか。
バブルチャートで、横軸・縦軸・円の大きさの3項目にそれぞれ列を割り当てます。円のラベルに事業名を出しておくと、会議で位置の話がしやすくなります。数字の出所と市場の定義は、図の脇に注記として残しておくと、後から見直しやすくなります。
事業が二つしかなくても図を作る意味はありますか。
二つの事業を比べるだけなら、図よりも事業別の収益と投資額の表のほうが手早く済みます。三つ以上になり、資源の取り合いが起きはじめた段階で、図の価値が出てくると考えられます。
評価が主観に寄らないようにするには、どうすればよいですか。
9セルのように複数の評価項目を総合する図では、項目と重みを先に文書で決め、評価者を複数にして点数を持ち寄る方法があります。点数が割れた項目は、事業の実態を確認する材料になります。
図を見直す頻度はどのくらいが目安ですか。
年1回を基本に、市場や競合に大きな変化があったときに追加で見直す考え方が一般的です。頻度は事業の変化の速さで変わるため、決めた頻度と出席者を記録しておくと、運用が続きます。
事業ポートフォリオ図は、事業の位置を並べる道具であり、資源配分の答えを出す道具ではありません。軸と市場の定義を決めた人の前提が、そのまま図に写ります。前提の置き方を複数の図で確かめ、映らない情報を重ねたうえで判断すると、図を議論の入口として使えます。
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